特定技能の離職率は16.1%|辞める理由と定着支援の実務
目次
特定技能の離職率として公表されている数字は16.1%——自己都合離職の届出(制度施行から2022年11月末までの延べ人数)を同時点の在留者数で割った暫定値で、読み方に注意が要る数字です。[1]より新しい公表では、資格を取得した人の22.4%が転職(受入れ機関の変更)を経験しています(令和7年8月末時点・暫定値)。[2]数字の中身は下の節で分解します。早く辞められるほど、紹介手数料や初期費用を回収できないまま募集と手続きをやり直すことになります。防ぐ土台は、本人が十分に理解できる言語での相談対応と、3か月に1回以上の定期面談——どちらも特定技能1号の義務的支援です。[3]そのうえで効かせる主戦場は、給与の前にまず住居と生活まわりの点検です(根拠は本文の調査データで示します)。
この記事の要点
- 公表の離職率は16.1%、ただし読み方に注意 — 制度施行から2022年11月末までの自己都合離職の届出(延べ人数)を同時点の在留者数で割った暫定値で、同じ集団を追いかけた離職率ではありません。分野別では宿泊32.8%から航空8.0%まで開きがあります(2022年11月末時点・在留者数が少ない分野の値は変動が大きい点に注意)。
- 転職経験は22.4%・大半が3年以内 — 令和7年8月末時点の公表データ(資格取得者341,253人ベース)。転職を経験した人の9割以上が3年以内に初回の転職をしています(令和3年取得者)。定着支援を入社初期に厚くする根拠になります。
- 辞めた人の7割近くは帰国していない — 自己都合で離職した人の進路は、帰国31.4%に対し、特定技能での転職・在留資格の変更など帰国以外が68.6%(編集部算出=100%−31.4%)。囲い込みではなく、移る理由をつくらない設計が要ります。
- 打ち手は生活まわりから — 政府委託のモデル事業調査では、入社の決め手でも入国後の相談でも生活環境の比重が大きい結果でした。給与を動かす前に、住居・通勤・買い物の点検から始めるのが本記事の整理です。
本記事は一般的な情報提供です。義務的支援の具体的な要件は、出入国在留管理庁の運用要領などで最新の内容を必ず確認してください。
なぜ定着支援が重要なのか
特定技能1号で在留できる期間は通算で原則5年しかなく、そのうえ本人は制度上ほかの会社へ移れるためです。[4]
出入国在留管理庁の運用要領は、特定技能外国人が転職により指定書に記載された受け入れ機関を変更する場合、または特定産業分野を変更する場合は、在留資格変更許可を受けなければならないとしています。手続きは必要ですが、移ること自体は制度が想定しているということです。定着支援は「囲い込み」ではなく、移る理由をつくらないための実務にあたります。
早期離職が起きると、企業側には次の3つの損失が生じます。
- 採用コストを回収できない — 人材紹介手数料や初期費用をかけて採用した人が早期に離職すると、その費用は回収できません。費用の内訳は特定技能の人材紹介手数料の相場で解説しています。
- 募集・手続きの手戻り — 離職のたびに、募集・選定・在留資格の手続きを最初からやり直すことになります。
- 受け入れの知見が現場に残らない — 定着が進めば受け入れのノウハウが現場にたまり、次の採用が楽になります。離職が続くと、これが積み上がりません。
退職を切り出されたときに効いてくる手続き
最初に決めるのは退職日です。転職には在留資格変更許可が必要で、許可の申請中は変更予定の就労先で働くことが認められていません。[4]退職日と次の入社日の間が空く前提で、引き継ぎを組むことになります。引き留めてよい範囲にも線があります——雇用契約の不履行について違約金を定める契約や、保証金の徴収・本人(親族を含む)の金銭その他の財産の管理は、名目を問わず受け入れの基準に反します。[4]引き留めは条件の再提示(昇給・配置転換・住居やシフトの見直し・一時帰国の時期の調整など)までです。切り出された後の初動・会社都合の解除で義務になる転職支援・届出の期限(多くは事由発生から14日以内)と様式は、外国人労働者のトラブル事例の「辞めたい」の節と届出の一覧にまとめています。
採用ルート(国内在住者からの転職採用か、海外からの新規入国か)によって生活基盤や日本語力の前提が変わる点は、特定技能の採用の流れ(国内採用と海外採用)をご覧ください。
本記事は特定技能1号を軸に整理しますが、受け入れ現場の準備や相談しやすい場づくりなど、在留資格を問わず使える工夫も多く含みます。技能実習(今後、育成就労制度へ移行)で受け入れている企業は、制度の違いを特定技能と技能実習の違い・育成就労制度とはで確認したうえで読み替えてください。
特定技能の離職率は16.1%——公表データの正しい読み方
分野別まで公表されている数値は、自己都合による離職の届出が制度施行から2022年11月末までに延べ1万9,899人、同時点の在留者数に対する割合で16.1%(暫定値)です。出入国在留管理庁が有識者会議に提出した資料に載っています。[1]
⚠️ この16.1%の読み方には注意が要ります。制度施行からの累計の延べ人数を、ある一時点の在留者数で割った値で、同じ集団を一定期間追いかけた離職率ではありません。集計対象は自己都合を届出事由とするものに限られ、行方不明などは含みません。時点は2022年11月末=制度施行(2019年)からの初期の集団に基づく断面です。2026年9月11日時点で、出入国在留管理庁の有識者会議提出資料・特定技能制度運用状況の公表資料の範囲では、この値を更新した自己都合離職率の公表は確認できていません(転職の実績はより新しい公表があります=下の節)。「定着率」を直接示す公表統計も同様に確認できていません——83.9%(100−16.1)を定着率と呼べない理由は、記事末尾のよくある質問で説明しています。更新値が出るとすれば、出入国在留管理庁の「特定技能制度運用状況」や有識者会議の公表資料の面です。
| 分野 | 自己都合離職の届出(延べ・制度施行〜2022年11月) | 在留者数(2022年11月末) | 割合 |
|---|---|---|---|
| 宿泊 | 63人 | 192人 | 32.8% |
| 農業 | 3,151人 | 15,675人 | 20.1% |
| 外食業 | 911人 | 4,644人 | 19.6% |
| 飲食料品製造業 | 7,846人 | 40,578人 | 19.3% |
| 漁業 | 245人 | 1,565人 | 15.7% |
| ビルクリーニング | 240人 | 1,692人 | 14.2% |
| 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業 | 3,655人 | 26,183人 | 14.0% |
| 造船・舶用工業 | 570人 | 4,337人 | 13.1% |
| 建設 | 1,458人 | 12,010人 | 12.1% |
| 介護 | 1,600人 | 15,092人 | 10.6% |
| 自動車整備 | 142人 | 1,594人 | 8.9% |
| 航空 | 10人 | 125人 | 8.0% |
| 分野計(分野を特定できた分) | 1万9,891人 | 12万3,687人 | 16.1% |
分野別で最も高いのは宿泊の32.8%、最も低いのは航空の8.0%です。⚠️ ただし宿泊(在留192人)・航空(同125人)のように在留者数自体が少ない分野の割合は、数人の増減で大きく動きます——順位だけを見て「この分野は辞めやすい」と読まないでください。なお、表の分野名は資料の時点(2022年11月末)のもので、「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」は現在の「工業製品製造業」にあたります(現在の分野構成は特定技能の対象分野一覧を参照)。表の分野計(1万9,891人)が冒頭の延べ1万9,899人と一致しないのは、集計の際に分野を特定できない人がいるためと注記されています。あわせて、行方不明を事由とする届出はこの集計とは別枠です(実数と技能実習との並置は下の「16.1%は高いのか低いのか」の節)。[1]
なお、外国人材の離職率として「全体19.2%」といった数値や、さらに高い割合が引用されることがありますが、有識者会議提出資料・特定技能制度運用状況・転職状況の公表資料の範囲では確認できませんでした(2026年9月11日時点)。出所や時点を確認できない数値は使わず、本記事は政府公表資料で確認できた値だけで整理しています。
辞めた人の68.6%は帰国していない
同じ資料には、自己都合で離職した人のその後も載っています。帰国が31.4%(6,061人)で最多ですが、特定技能での転職が30.3%(5,852人)、別の在留資格への変更が15.1%(2,915人)、いずれにも該当しない(求職活動中や在留資格変更許可の申請中などを含む)が23.2%(4,471人)と続き、帰国以外が68.6%を占めます(編集部算出=100%−31.4%。この集計の母数1万9,299人は、届出後に復職した人を除くなどの理由で先の延べ人数とは一致しません)。[1]辞める=帰国ではなく国内で次の勤め先を探す、という前提で定着支援を設計することになります。
転職はどれくらい・いつ起きているのか——令和7年8月末時点の公表データ
同じ集団を追いかけた形の数字は、転職について公表されています。出入国在留管理庁の公表資料によると、令和3年1月から令和6年末までに「特定技能1号」の資格を取得した341,253人のうち、令和7年8月末までに転職(受入れ機関の変更)を経験した人は76,338人=22.4%(暫定値)です。[2]16.1%(自己都合離職の届出ベース)とは定義も期間も異なるため、2つの数字は足し引きせず別々に読みます。
- 資格取得年別では令和3年29.2%・令和4年28.7%・令和5年25.1%・令和6年12.2%。
- 初回の転職時期は資格取得後1年未満が33,963人・1〜2年が32,123人です。同資料は「転職経験者全体の大部分が3年以内に転職する傾向にある(例えば、令和3年に資格取得した者では9割以上)」と注記しています。⚠️ 取得から日が浅い人はまだ後年の転職をしようがないため、全体の時期分布は初期に寄って見えます。追跡期間が最も長い令和3年取得者では、転職を経験した10,905人のうち72.8%が2年以内に初回の転職をしています(編集部算出=(3,595人+4,348人)÷10,905人)——定着支援を入社初期に厚くする根拠は、コホート型で見ても崩れません。
- 転職回数は1回が84.6%——多くは一度きりの移動です。
分野別の転職経験者の割合(資格取得者に対する合計・令和7年8月末時点・暫定値)は次のとおりです。[2]
| 分野 | 転職経験者の割合 |
|---|---|
| 農業 | 32.9% |
| 漁業 | 28.1% |
| 飲食料品製造業 | 27.1% |
| ビルクリーニング | 23.7% |
| 外食業 | 22.2% |
| 介護 | 20.3% |
| 工業製品製造業 | 19.6% |
| 宿泊 | 17.9% |
| 造船・舶用工業 | 16.8% |
| 自動車整備 | 15.0% |
| 建設 | 10.8% |
| 航空 | 9.0% |
⚠️ 上の離職率の表(2022年11月末・自己都合届出ベース)とこの表(令和7年8月末・コホート型)は時点も定義も違います——同じ分野の2つの値を横に並べて増減を読まないでください。転職率が高い農業・漁業で受け入れる場合は、この前提を織り込んだうえで、分野固有の受け入れ実務を農業の特定技能採用・漁業の特定技能採用で確認してください。なお、この転職市場は裏返せば国内在住者を採用する側にも回れる市場です。国内転職者の採用ルートは特定技能の採用の流れ(国内採用と海外採用)、転職者を受け入れるときの通算5年の残りの確認は特定技能の在留期間と更新をご覧ください。
16.1%は高いのか低いのか——比べられる数字と、比べられない数字
同じ定義で比べられる相手はありません——16.1%は「累計の延べ人数÷一時点の在留者数」という特殊な作りで、一般の離職率統計(同一集団を期間で追う型)と定義がそろわないためです。それでも判断の物差しは3つ持てます。
1つ目は、日本人の若手との並置です。厚生労働省が2025年10月24日に公表した「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」では、就職後3年以内の離職率が中学卒54.1%・高卒37.9%・短大等卒44.5%・大卒33.8%です。[5]これは同じ卒業年の集団を3年間追いかけた値で、定義が違うため直接は比べられませんが、特定技能側もコホート型の転職経験率が22.4%(取得年が古い令和3〜5年では25.1〜29.2%)——「若手を採用すれば数年内に一定割合が動く」のは外国人材に限った話ではない、というのが桁感としての読みです。
2つ目は、技能実習との比較の限界を知っておくことです。技能実習は原則として実習先を移れない制度のため「離職率」にあたる公表統計がなく、勤め先を離れる動きは失踪(行方不明の届出)として現れます。同じ令和3年を同一資料で見ると、技能実習の失踪は技能実習生数の1.8%(7,167人/母数40万1,623人)、特定技能の行方不明の届出は0.14%(76人/母数5万5,760人)でした(どちらも「行方不明」を事由とする届出件数の集計です)。[6]移れない制度では失踪として、移れる制度では転職として現れる——制度の作りが違う以上、「技能実習と比べて辞めやすいか」は率を並べて答えられる問いではありません。制度そのものの違い(転職可否・費用構造・監理団体の有無)は特定技能と技能実習の違いを参照してください。行方不明が起きたときの初動と届出、失踪者数の直近の推移は外国人労働者のトラブル事例で扱っています。
3つ目は、全体率より自社の条件に近い数字を見ることです。行動を決める材料としては、全体の値より、自分の分野の値(上の表と転職の分野別)・転職が入社初期に集中する時期分布・転職回数は1回が84.6%という3点のほうが効きます。
なお、「特定技能の転職率は4.7%」という数字を解説記事などで見かけることがあります。これは進路内訳の「特定技能での転職」5,852人を2022年11月末の在留者数12万3,687人で割った値(編集部算出=出所確認用)で、届出ベースの古い断面です。同じ「転職率」という言葉でも、より新しいコホート型の22.4%とは定義が違います。
自社の離職率をどう数えるか——分母・分子・期間を先に決める
公表値と自社を比べる前に、数え方を3点固定することが先です。ここが揃っていないと、去年との比較も公表値との比較も意味を持ちません。
- 期間——「暦年」か「年度」かを決めて固定します。比較は同じ長さの期間同士で行います。
- 分子——何を「離職」に数えるかを決めます。自己都合退職だけか、契約期間満了・帰国・在留資格の変更(介護福祉士取得による変更など前向きの移行を含む)も入れるか。⚠️ 公表の16.1%は「自己都合」を事由とする届出だけの集計で、行方不明などは含みません。[1]混ぜて数えた自社の値をそのまま公表値と並べると、高く見えます。
- 分母——期間の頭に在籍していた人数に、期間中の入社者を含めるかを決めます。入社者が多い成長期は、分母の取り方だけで値が大きく動きます。
「定着率」として語りたい場合も、同じ定義の裏返し(期首に在籍した人のうち期末も在籍している割合)で数えれば足ります。比較先としてもう1つ実務的なのは、同じ定義で数えた自社の日本人従業員の離職率です。定義さえ揃えれば、地域・職種・待遇の条件が同じ「同じ土俵」で比べられる唯一の相手になります。
少人数の受け入れでは率そのものに意味が出にくいため(1人辞めると50%になる)、率よりも「誰が・何か月目に・どの理由区分で」の一覧で持つほうが、次の採用の設計に直結します(列は入社日・分野/職種・採用ルート・離職日・在籍月数・理由区分・離職後の行き先の7つで足ります)。時期の物差しには、上の「転職の大部分が3年以内・初回は1〜2年目まで」がそのまま使えます。
離職の予兆は、多くの場合すでに手元の記録に出ています。相談記録が1件も無い期間が続く(相談が来ないのではなく、相談しにくい状態が続いている可能性)、定期面談の回答が短くなる・生活の相談が金銭の相談に変わる、シフトや休日の希望が急に変わる——こうした変化を、下の「支援が機能しているかは「記録」で点検できる」の自主点検と同じ周期で見ておくと、退職を切り出される前に手を打つ余地が残ります。それでも辞めた人が出たときは、退職面談で理由を聞き取り、区分(給与・生活・人間関係・家族都合・キャリア)を決めて1行でも記録に残してください。辞めた理由の政府統計が無い以上、自社の記録の積み上げだけが、次の採用と定着設計に使える理由データになります。
辞める理由を政府統計は集計していない——手がかりは3つ
辞めた理由そのものを集計した政府統計は、2026年9月11日時点で、有識者会議提出資料・転職状況・特定技能制度運用状況の公表資料の範囲では確認できていません(人材会社各社の自社調査はありますが、母集団が各社の利用者に偏るため本記事では扱いません)。手がかりは3つあります。①離職後の進路——前の節のとおり、帰国は3割にとどまり、特定技能での転職+在留資格の変更で国内に残る道を選ぶ人が半数近くを占めます。②入社を決めるときの重視点と③入国後の相談の内訳——いずれも次の節のとおり、給与とほぼ並んで生活環境が重く、相談の最多は生活関係です。3つを重ねると、賃金だけでなく生活まわりと職場の関係の細かい不満が積もり、より条件の合う国内の職場へ移る——という経路が最も説明的です(直接の理由統計が無い以上、断定はしません)。「辞めたい」と切り出されたときの初動やトラブルの事例は外国人労働者のトラブル事例で扱っています。
何が定着を左右するのか——モデル事業の調査から
答えから言えば、定着を左右する比重が大きいのは給与とほぼ並んで生活環境です。厚生労働省の委託で行われた「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」の報告書では、外国人材が入社を決めるにあたって重要視したこととして、給与65%とほぼ並んで生活環境が64%、次いで勤務条件49%、職場の場所48%、キャリア支援など成長支援の有無46%が挙がっています(外国人材アンケート・複数回答。母集団は本事業で入国した最大390人=99.2%の定着率と同じ限定がつきます)。[7]
入国後に2か月に1回実施した定期面談で寄せられた相談の内訳も、同じ方向を向いています(相談533件)。生活関係が39%(住居・交通機関・気温・全体的な不便さ)で最も多く、就業関係31%(キャリアアップ・就労環境・シフトや休日・退職の相談)、人間関係12%(職場の上司や先輩・同居人)と続きます。[7]
読み取れるのは、生活まわりが給与とほぼ並ぶ比重を持つということです。給与ほど動かしにくくないぶん、住居の質・通勤手段・買い物のしやすさの点検は、同じ手間で効きやすいと考えられます。この内訳はそのまま定期面談の質問設計にも使えます——住居・通勤・買い物などの生活まわりから聞き始め、シフトや休日などの就業条件、職場の人間関係へ進む順にすると、相談の多い領域から順に拾えます。
時期の面では、同じ報告書の受入企業側アンケートで、外国人材の受け入れで困ったことは「特になし」という回答が入社1か月目の31%から5か月目には43%へ増えています。[7]企業側から見た困りごとも入社初期に集中するということです。短い間隔の声かけを最初の1〜2か月に厚く置く根拠になります。
同じ報告書では、受け入れから6か月経過時点の企業(124社)のうち、教育担当者の配置は90%、定期面談の実施は74%が行っていた一方、調査項目「母国語での相談窓口の設置もしくは紹介」を行っていたのは12%にとどまりました(項目名は調査票のまま。制度上求められるのは母国語ではなく本人が理解できる言語です)。[7]教育担当者や面談に比べ、相談窓口の整備は後回しになりやすいことがうかがえます。
⚠️ この事業では6か月時点の定着率が99.2%と報告されています(退職した3名も転職ではなく帰国による退職とされています)が、5道県・入国390人・6か月時点という限られた条件下の結果で、業界一般の数値として扱えるものではありません。
仕送りが前提の家計——手取りの変化に敏感になる構造
生活まわりの比重が大きい背景には、家計の構造があります。厚生労働省の令和6年外国人雇用実態調査(生活状況の章・令和6年9月30日現在)では、母国の家族などへ仕送りをしている外国人労働者は54.8%——在留資格別では技能実習の83.5%に次いで特定技能が81.6%と、10人中8人が仕送りをしています。1年間の仕送り額の平均は、在留資格別で特定技能が123.3万円と最も高く(外国人労働者全体は104.3万円)、月あたりに直すと約10万円です(編集部算出=123.3万円÷12か月)。[8]
加えて、特定技能の求職で仲介者を利用した人は95%(n=607・複数回答)、その手数料を借金で賄った人は約18%(n=564)という調査結果もあります(有識者会議提出資料)。[1]毎月ほぼ固定の送金——人によっては入社時点の債務の返済——を抱える家計では、手取りが数千円動くことの重みが、日本人の同年代の感覚とは違います。この調査は仕送りと離職の関係までは集計していないため因果は断定しませんが、定着支援の設計で「給与の額面」と同じくらい「手取りを決める費目」を丁寧に扱う理由にはなります——雇用条件書の控除の内訳を本人が理解できる形で示すこと(雇用契約書・雇用条件書の書き方)、社宅の費用を実費の範囲で設定すること(義務的支援10項目)、家賃補助を出すならいくら見込むか(特定技能の採用費用)は、いずれも手取り側から見直せる費目です。給与水準そのものの決め方は特定技能の給料の決め方で扱っています。
定着の土台=義務的支援を確実に回す
義務的支援は「最低限やること」ではなく、離職の兆候を拾う仕組みそのものです。特定技能1号では、生活や仕事を支えるための支援が義務的支援として定められています。[3]出入国在留管理庁の運用要領は「義務的支援はその全てを行う必要があり、1号特定技能外国人支援計画には全ての義務的支援を記載しなければならない」「義務的支援の全てを行わなければ、支援計画を適正に実施していないことになる」と明記しています。[9]
とくに定着に直結するのは次の点です。
- 「母国語」ではなく「本人が十分に理解できる言語」 — 事前ガイダンス・生活オリエンテーション・相談や苦情への対応・定期面談は、外国人が十分に理解することができる言語で実施すると定められています。運用要領はこれを「特定技能外国人の母国語には限りませんが、当該外国人が内容を余すことなく理解できる言語をいいます」と説明しています。第二言語であっても、本人が内容を理解できるかどうかで判断します。
- 相談・苦情への対応は「頻度」ではなく「つながる体制」 — 運用要領の留意事項では、本人の勤務形態に合わせて1週間あたり勤務日に3日以上・休日に1日以上対応し、相談しやすい就業時間外(夜間)などにも対応できることが求められています。⚠️ この基準と定期面談の「3か月に1回以上」は別物です。3か月おきに面談さえすればよいと読むと、相談体制の要件を満たさないことになります。
- 定期面談は本人だけでなく上司にも行う — 3か月に1回以上、本人と、その監督をする立場にある者(直接の上司や雇用先の代表者等)のそれぞれと面談します。片方だけでは実施したことになりません。
- 日本人との交流促進も義務的支援 — 地域住民との交流の場に関する情報提供、自治会の案内、行事への参加手続きの補助は、あれば良い取り組みではなく義務的支援に位置づけられています。ただし参加そのものは本人の意思を尊重します(業務外の行事への参加を事実上強制しない)。
- 待遇は日本人と同等以上(支援でなく雇用契約側の基準) — 報酬の額は日本人が従事する場合と同等以上であることが基準省令で求められます。[4]住居についても、日本人労働者に社宅を提供しているのであれば同等に提供し、居室の広さも同等を確保する必要があります(技能実習2号等から変更する場合で、申請時点で既に確保している社宅に住み続けることを希望するときは、技能実習で求められる寝室1人当たり4.5㎡以上が下限とされています)。[9]
- 一時帰国の希望には有給休暇で応える(同じく雇用契約側の基準) — 一時帰国を希望した場合に必要な有給休暇を取得させることは、特定技能雇用契約そのものの基準です。年次有給休暇を使い切った本人から申出があった場合にも、追加的な有給休暇や無給休暇を取得できるよう配慮することが望まれるとされています。[4]雇用条件書への書き方は雇用契約書・雇用条件書の書き方を参照してください。帰国が進路の3割・仕送りが8割という実態(上の各節)から見ても、家族との接点を保てる職場かどうかは、移る理由に直結します。
義務的支援の全項目と実施のポイントは義務的支援10項目、支援体制が受け入れ要件に含まれることは特定技能で企業に求められる受け入れ要件で解説しています。
入社前から1年までに何をするか——時期別の実務
順番はこうです——事前ガイダンス(申請前)→生活オリエンテーションと生活立ち上げ(入国・入社直後)→定期面談(3か月ごと)→評価の見直し(在留期間の更新の前後)。最初の支援は入社後ではなく在留資格の申請前に来ます。時期を外すと、内容が正しくても支援計画の適正な実施とは認められません。
| 時期 | その時期に実施すること | 制度上の位置づけ(特定技能1号) |
|---|---|---|
| 選考〜内定 | 期待値のすり合わせ(手取り額と控除の内訳、夜勤・シフトの頻度、配属先の人数構成と同国籍の先輩の有無、宗教・食事への配慮、一時帰国の予定、職場見学や動画での作業内容の共有) | 企業の任意の取り組み。義務ではないが、入社後の「聞いていた話と違う」を減らす |
| 在留資格の申請前(雇用契約の締結時以前が望ましいとされる) | 事前ガイダンス(業務内容・報酬・入国手続き・費用負担の考え方などの説明) | 義務的支援。在留資格認定証明書の交付申請前(国内で在留資格を変更する場合は変更申請前)に、対面またはテレビ電話等で実施。3時間程度行うことが必要と考えられるとされる |
| 入国直後/在留資格の変更許可の直後 | 生活オリエンテーション(生活一般・行政手続き・相談窓口・医療機関・防災防犯・法的保護の6分野) | 義務的支援。遅滞なく実施。理解には少なくとも8時間以上が必要とされ、技能実習からの移行などで生活環境に変化がない場合でも4時間に満たなければ適切に行ったとはいえないとされる |
| 入社直後〜1か月 | 住居の確保、銀行口座・携帯電話・電気ガス水道の契約補助、配属先の社員への受け入れ説明、初回面談の日程確保 | 住居確保と生活契約の補助は義務的支援。受け入れ側への説明は企業の任意の取り組み |
| 3か月ごと | 本人との面談、および本人を監督する立場にある人(直接の上司等)との面談 | 義務的支援。3か月に1回以上、双方に実施。実施できるのは支援責任者または支援担当者。オンライン面談を使う場合、録画の保管は義務(雇用契約の終了日から1年以上)で、本人が対面を希望したときや問題が疑われるときは対面での面談が必要 |
| 随時(通年) | 相談・苦情への対応、地域行事の案内と参加の補助 | 義務的支援。相談対応は週の勤務日3日以上・休日1日以上、夜間にも対応できる体制が求められる |
| 在留期間の更新の前後 | 評価・昇給の見直しと次の目標の共有、支援記録がそろっているかの自己点検 | 在留期間は3年を超えない範囲内で法務大臣が個々に指定するため、その更新の前後は本人が今後を考える節目になる |
表の内容は、出入国在留管理庁の運用要領の各支援項目と留意事項に基づいています。[9][4]
支援が機能しているかは「記録」で点検できる
自社の支援が形だけになっていないかは、残っている記録を見ると分かります。運用要領は支援ごとに作成・保存する書類を定めており、たとえば相談・苦情への対応は相談記録書(参考様式第5-4号)、定期面談は本人用・監督者用の定期面談報告書(参考様式第5-5号・第5-6号)、生活オリエンテーションは本人の署名を得た確認書(参考様式第5-8号)が該当します。[9]
これらの記録は、毎年5月31日までに前年度分をまとめて地方出入国在留管理局へ提出する年1回の定期届出の下敷きにもなります。[4]届出前にまとめて整えるのではなく、四半期など短めの周期で「相談記録が1件も無い期間はないか」「面談報告書が本人分と監督者分の両方そろっているか」を自主点検しておくと、支援が回っているかどうかを早めに判定できます。委託している場合も同じです——面談報告書・相談記録の写しを定期的に共有してもらう取り決めを契約時にしておくと、委託先の支援が回っているかを同じ物差しで点検できます。記録が薄い期間は、相談しにくい状態が続いていた可能性を疑う手がかりになります。支援ごとに残す書類の全項目と保存期間は義務的支援10項目の一覧を参照してください。点検の結果、委託先の支援が回っていないと分かり委託先を替える判断になったときの手順(届出2本・タイミングの注意)は登録支援機関の変更(乗り換え)で解説しています。
義務的支援に上乗せして企業ができること
義務的支援を満たしたうえで効いてくるのは、委託先では担えない領域です。
- 定期面談の間隔を待たずに話せる場をつくる — 入社直後の不安は3か月おきの面談では拾えません。入社3日目・10日目・1か月目のように短い間隔で声をかけ、以後は定期面談に合流させる運用にすると、初期のすれ違いを早めに把握できます。直属の上司とは別の先輩を相談役に付け(本人が話しやすい言語で相談できる先輩がいれば適任です)、月1回など間隔を決めて振り返る形にすると、上司には言いにくい話が出やすくなります(この相談役は、後述のとおり制度上の支援担当者とは別に考えます)。可能なら初回から1人だけで採らず複数名を同時に受け入れ、職場の中に話しやすい相手がいる状態を最初から作る設計も、同じ効き方をします。
- 伝える手段を言葉以外にも用意する — 写真つきの手順書、機器や場所を指し示す指差しカード、頻出のやり取りをまとめた定型フレーズ集など、口頭に頼らない道具を先に作っておきます。運用要領は、円滑にコミュニケーションが取れることを前提に翻訳機の活用も可能としつつ、込み入った相談・苦情対応では「通訳人の介在が不可欠」と考えられるとしています。[9]日常の指示はやさしい日本語と道具でまかない、待遇や体調の相談には通訳を確保する、という線引きが実務的です。あわせて指示の言葉づかいも道具の一部です——「できるだけ早く」「キリのよいところで」のような曖昧語を避け、「◯日◯時までに」「この棚の分だけ」のように数字と対象で言い切る型に揃えます。
- 昇給と役割の到達条件を書面で示す — 「頑張れば上がる」ではなく、どの技能をどこまで身につけたら何円上がるのかを書面にし、本人が理解できる言語で渡します。特定技能2号へ移行できる分野では、その道筋もあわせて示すと働き続ける動機につながります。2号になると配偶者・子を呼べるようになるため、家庭を持つ人にはとくに強い動機になります(呼べる時期と要件は特定技能1号・2号の違い(2号の家族帯同の節))。ただし介護には特定技能2号がありません(2号の対象分野は特定技能の対象分野一覧を参照)。介護では、介護福祉士の資格取得と在留資格「介護」への移行が長期就労の道筋になります。資格取得の支援の組み立て方は外国人介護福祉士|合格率は3人に1人・実務経験3年ルートと在留資格「介護」への変更で解説しています。
- 日本語学習は「機会の提供」までが義務、費用の負担は任意 — 義務的支援として求められるのは、地域の日本語教室や認定日本語教育機関の入学案内、教材やオンライン講座の情報提供と、必要に応じた手続きの補助までです。入学金・月謝・教材費を企業が負担すること、日本語能力に関する試験の受験を支援すること、資格取得者に優遇措置を設けることは任意的支援として挙げられています。[9]差がつくのはこの任意の部分です。
なお、通訳の配置や社内標識の多言語化など就労環境の整備には、厚生労働省の人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)を使える場合があります。対象の取り組みと金額は外国人雇用の助成金・補助金で在留資格別に整理しています。
社内で抱え込まない——社外の相談先
在留手続き・労働条件・人権・法的トラブルなど、社内では扱いきれない相談は、出入国在留管理庁の外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)が入口になります——在留・労働・人権・法律支援の関係機関が1か所に集まっており、代表のナビダイヤルから窓口を選んでつながります(受付時間・対応言語は公式ページを参照)。[10]
地域の相談先としては、自治体の一元的相談窓口があります。出入国在留管理庁の外国人受入環境整備交付金を活用して、令和6年度末時点で281の地方公共団体が運営しています。[11]生活面の相談先として、生活オリエンテーションの段階で本人に案内しておくと、困ってから探すのではなく、困る前に行き先が決まった状態になります。2025年4月からは、支援計画そのものを市区町村の共生施策(行政サービス・ゴミ出しのルール・防災・地域イベント・日本語教室など)を確認し、これを踏まえて作成・実施することが制度上の手続きになりました(市区町村への「協力確認書」の提出も必要です=様式・提出時期は義務的支援10項目)。[12]手続きの面とは別に、ここで確認した地域の日本語教室や行事は、義務的支援の交流促進をゼロから自前で組まずに済む資源として使えます。
企業側が無料で使える相談先もあります。ハローワーク(労働局)の外国人雇用管理アドバイザーは、外国人を雇用する事業主からの雇用管理の改善や職業生活上の相談に、事業所を訪問して専門的な指導・援助を行う制度です。申込みは最寄りのハローワーク(労働局)経由で、相談費用は無料です(受付の窓口は労働局によって異なります)。[13]「定期面談で拾った不満にどう対応するか」「日本語能力に応じた職場づくり」のような、社内に前例のない相談の持ち込み先になります。
企業側のルールの確認先としては、厚生労働省が在留資格を問わず事業主に適用される「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」を公表しています。特定技能の義務的支援とは別に、外国人を雇用するすべての事業主が対象です。[14]
誰が担うか——社内の担い手と登録支援機関の役割分担
社内の担い手は「現場の指導役」と「制度上の支援担当者」の2つに分かれ、同じ人が兼ねられないことがあります。
出入国在留管理庁の運用要領で定められている役職は、支援責任者と支援担当者の2つです。この2つには中立性の要件があり、外国人を監督する立場にない者、つまり本人に対する指揮命令権を持たない者でなければなりません。代表取締役や、本人が所属する部署を監督する長(本人の所属が製造課なら製造部長)は、組織図を作成した場合に縦のラインにある者として適格性がないとされています。[4]
一方、定期面談の相手方となる「監督をする立場にある者」は、運用要領の例示では直接の上司や雇用先の代表者等を指します(代表者は支援する側にはなれませんが、面談を受ける側には立つ、という関係です)。[9]つまり、現場で日々指示を出す指導役は、面談を実施する側ではなく面談を受ける側に立ちます。現場の指導役を決めることと、支援担当者を選任することは別の作業です。支援担当者は、外国人に活動をさせる事業所ごとに1名以上を選任する必要があり、支援責任者が兼ねることもできます。[4]
委託先との分担は、次のように整理できます。
| 担い手 | 主に担う支援 |
|---|---|
| 登録支援機関 | 事前ガイダンス・生活オリエンテーション・本人が十分に理解できる言語での相談対応・定期面談(委託の形による=下の⚠️参照)・各種手続きの同行 |
| 企業(自社) | 支援計画の作成・各種届出(委託しても残る=下の⚠️)・現場の受け入れ体制づくり・仕事の指導・評価とキャリア・職場の人間関係 |
⚠️ 委託できるのは支援の実施です。1号特定技能外国人支援計画の作成そのものは受け入れ機関の義務で、登録支援機関は作成の補助までです。委託しても、支援が適正に実施される責任と各種届出は受け入れ機関に残ります。[3]
委託費は月額で設定されるのが一般的です。出入国在留管理庁が有識者会議に提出した資料の集計では、特定技能外国人1人あたりの支援委託料(月額)の平均は28,386円で、全体の約90%が30,000円以下でした(暫定値・2022〜2023年開催の有識者会議への提出資料に基づく=時点が古い点に注意)。[1]金額帯の分布・内訳の見方・変動要因は登録支援機関の費用相場で解説しています。
⚠️ 委託しても切り離せない部分があります。定期面談を実施できるのは支援責任者か支援担当者に限られ、支援計画の全部を登録支援機関に委託する場合を除いて、第三者への委託は認められていません(通訳人や専門家を履行補助として同席させることは可能です)。[9]一部だけを委託する場合は、面談を誰が行うのかを契約前に確認してください。
自社で支援するか委託するかの判断は自社支援か委託か、委託先の選び方と契約前の確認は登録支援機関の選び方を参考にしてください。委託するなら——そして、すでに委託していて見直したいなら——どの機関が自社の分野・地域・言語・支援体制に合うかが次の問いになります。
受け入れる側の職員をどう準備するか
入社前に決めておくことは4つ——日々の指導役・配属先への説明・緊急時の言い回し・生活面の配慮です。準備が要るのは本人だけでなく、受け入れる側の職員です。
- 日々の指導役を1人決め、役割を業務として位置づける — 誰が指導するか決まっていないと、質問の宛先が定まらず、結果的に誰も見ていない状態になります。手当や勤務時間の扱いを含めて業務として設計し、1人に負荷を集中させない交代・分担も決めておきます(受け入れ側の職員が先に疲弊するのが典型的な副作用です)。
- 配属先の職員への説明会を開く — 在留資格でできる業務の範囲、日本語のレベル、生活面で企業が支援している内容を共有します。「日本語が話せないから仕事もできない」といった無意識の思い込みに気づく時間を短く取り、逆に本人から出身国の生活や食文化を紹介してもらう場を設けると、相互の距離が縮まります。介護など利用者と接する現場では、職員への説明に加えて、利用者・家族へ誰が・いつ・どう伝えるかも先に決めておくと、初対面の場で現場の職員が個別に釈明する状態を避けられます。
- 緊急時に使う言い回しをそろえる — 事故や体調の急変時に使う言葉を短い定型文にして掲示します。生活オリエンテーションでも、防災防犯と急病その他の緊急時の対応は情報提供が義務づけられている項目です。[9]
- 食事・礼拝など生活面の配慮を先に決めておく — 母国の祝日・行事にシフトの希望が集中しやすい時期も、先に聞いておくと調整しやすくなります。運用要領は、生活オリエンテーションで医療機関の利用方法を説明する際、アレルギーや宗教上の理由で治療に制限がある場合は医療機関にその旨を説明するよう伝えることを求めています。[9]受け入れ側で先に確認しておくと、入社後に個別対応で慌てずに済みます。
介護の現場では、これに固有の論点が加わります。任せられるのは身体介護等とそれに付随する支援業務で、関連業務だけを任せることはできません(業務範囲の線引きは特定技能 介護の受け入れ)。利用者の居宅でサービスを提供する訪問系サービスに従事させる場合は、OJTでの同行やハラスメント対応など事業者側の遵守事項が別に定められており、施設内のみで従事させる場合とは受け入れ準備の中身が変わります。[15]遵守事項の全項目と本人側の要件は訪問介護に特定技能で従事できるか(事業者の遵守事項)で解説しています。
介護でつまずきやすいところ
介護でつまずきやすいのは、定着の工夫より前にある要件の証明です。要件を満たさないまま進めると、在留資格の申請段階で止まるか、待遇への不満として後から出てきます。介護固有なのは協議会の加入時期で、報酬・支援計画・住居は全分野に共通する要件です——共通側は要点だけ挙げ、詳細は各要件の解説記事に譲ります。
- 協議会への加入が後回しになる(介護固有) — 介護分野では、在留諸申請の前に協議会へ加入している必要があります。令和6年6月15日以降は、初めて受け入れる場合であっても構成員であることの証明書の提出が必要です。[15]加入から証明書発行までの期間の実務は特定技能 介護の受け入れで解説しています。
- 報酬の「日本人と同等以上」を説明できない(全分野共通) — 介護は技能実習からの移行者が多く、⚠️ 技能実習2号を修了した人はおおむね3年程度の経験者として扱う必要があります(技能実習2号修了時の報酬額を上回るだけでは足りず、3年程度の経験を積んだ日本人技能者の報酬額とも比較します)。[4]説明の様式と、比べる日本人がいない場合の説明の分岐は特定技能で企業に求められる受け入れ要件で解説しています。
- 支援計画の記載漏れ・住居の手配遅れ(全分野共通) — 支援計画には全ての義務的支援を記載し、本人が理解できる言語での説明と署名まで求められます。住居確保の支援(3つの方法・原則1人あたり7.5㎡以上=技能実習からの継続入居の例外は上の義務的支援の節)も入国直前では間に合いません。[9]いずれも実施基準の全文は義務的支援10項目を参照してください。
報酬を得て業として行う在留資格の申請書類の作成は行政書士などの専門家の領域です(申請の取次ぎ=申請書等の提出は、届け出た弁護士・行政書士のほか、変更・更新なら承認を受けた自社・登録支援機関の職員も、本人の依頼を受けて行えます。海外から初めて呼ぶ場合の在留資格認定証明書の交付申請は、本人と雇用契約を結んだ企業の職員が代理人として提出できます)。この線引きは介護に限らず全分野共通です。参考様式の作成で判断に迷う場合は、専門家と連携して進めてください。受け入れ要件の全体像は特定技能で企業に求められる受け入れ要件、介護固有の要件は介護の人数枠と対象施設の条件で整理しています。
まとめ
外国人材の定着支援は、義務的支援を時期どおりに実施することが土台になります。着手の順番は3つ——①住居・通勤・買い物など生活まわりの点検 ②入社1〜2か月の短い間隔の声かけ(以後は定期面談へ合流) ③手取りを決める費目(控除・社宅費・家賃補助)を本人が理解できる形で示す。そのうえで、昇給と役割の到達条件の明示、受け入れる側の職員の準備を上乗せしていきます。
公表データが示しているのは、辞めた人の多くが帰国せず国内で次の勤め先を探すこと、そして入社の決め手でも入国後の相談でも生活まわりの比重が大きいことです。支援の実施状況は相談記録や面談報告書で点検し、面談を誰が行うのかを含めて登録支援機関と役割を分担しておくと、離職の兆候を早い段階でつかみやすくなります。
採用の全体像は特定技能とは?、登録支援機関の役割は登録支援機関とは、支援の中身は義務的支援10項目をご覧ください。委託先を選び直すところから始めるなら登録支援機関の選び方へ。
よくあるご質問
- 特定技能の離職率・転職率はどれくらいですか?
- 公表されている数字は2つあります。①自己都合離職の届出は、制度施行から2022年11月末までの延べ人数で在留者数の16.1%(暫定値・同じ集団を追いかけた離職率ではありません)。②転職(受入れ機関の変更)の経験者は、令和3年1月〜令和6年末に資格を取得した341,253人のうち22.4%(令和7年8月末時点・暫定値)です。定義が異なるため2つの数字は足し引きできません。
- 外国人材の定着支援とは、具体的に何をすることですか?
- 採用した人が安定して働き、生活できるように行う支援です。特定技能1号では、事前ガイダンス・生活オリエンテーション・相談や苦情への対応・3か月に1回以上の定期面談などが義務的支援として定められており、これを実際に機能させることが土台になります。そのうえで、現場の受け入れ準備、評価とキャリアの見通し、日常的に相談しやすい場づくりを企業が上乗せしていきます。
- 支援は本人の母国語で行う必要がありますか?
- 母国語である必要はありません。出入国在留管理庁の運用要領は、事前ガイダンス・生活オリエンテーション・相談や苦情への対応・定期面談を「外国人が十分に理解することができる言語」で行うと定めたうえで、これは母国語には限らず、本人が内容を余すことなく理解できる言語をいうと明記しています。第二言語でも本人が十分に理解できれば要件を満たしますが、込み入った相談では通訳人の介在が必要と考えられるとされています。
- 特定技能の定着率は何%ですか?
- 「定着率」そのものを示す公表統計は、2026年9月11日時点で、出入国在留管理庁の有識者会議提出資料・転職状況・特定技能制度運用状況の公表資料の範囲では確認できていません。離職率16.1%の裏返し(100−16.1=83.9%)を定着率と呼ぶのは誤りです——16.1%は累計の延べ人数を一時点の在留者数で割った値で、同じ集団を追いかけた統計ではないためです。なお厚生労働省委託のモデル事業が報告する定着率99.2%は、5道県・入国390人・6か月時点という限定つきの値で、一般の数値ではありません。実務では、転職経験22.4%(令和7年8月末時点・暫定値)と自社の分野の値を物差しにしてください。
- 外国人社員の離職を防ぐには、何から始めればよいですか?
- 土台は義務的支援を時期どおりに実施することです。そのうえで効きやすい順に、①住居・通勤・買い物など生活まわりの点検(政府委託のモデル事業調査で、入社の決め手でも入国後の相談でも生活環境の比重が大きかったため)②入社1〜2か月に短い間隔の声かけを厚く置く(転職の大半は3年以内・受け入れ側の困りごとも入社初期に集中するため)③手取りを決める費目(控除の内訳・社宅費・家賃補助)を本人が理解できる形で示す、の3つです。給与の額面を上げる前に、同じ手間で効きやすい生活側から着手するのが本記事の整理です。
- 技能実習と比べて、特定技能は辞めやすいのですか?
- 率の直接比較はできません。技能実習は原則として実習先を移れない制度のため「離職率」にあたる公表統計がなく、勤め先を離れる動きは失踪(行方不明の届出)として現れます。特定技能は転職できる制度のため、離職・転職の統計として現れます。同じ年(令和3年)を同一資料で見ると、技能実習の失踪は技能実習生数の1.8%、特定技能の行方不明の届出は0.14%でした。制度の作りが違う以上、「どちらが辞めやすいか」は率を並べて答えられる問いではありません。
- 特定技能で採用した外国人は、辞めたあとどうなりますか?
- 多くは国内に残ります。出入国在留管理庁が有識者会議に提出した資料によると、自己都合で離職した人のその後は、帰国31.4%、特定技能での転職30.3%、別の在留資格への変更15.1%、いずれにも該当しない(求職活動中などを含む)23.2%で、帰国以外が68.6%(編集部算出=100%−31.4%)を占めます(制度施行から2022年11月末までの届出をもとにした暫定値)。辞める=帰国ではなく国内で次の勤め先を探す、という前提で定着支援を設計することになります。
- 定着支援は登録支援機関に任せきりでよいですか?
- 委託できるのは支援の実施で、支援計画の作成と、支援が適正に実施される責任は受け入れ機関(企業)に残ります。また、職場での人間関係や仕事の進め方、評価とキャリアは企業側でしか対応できません。また定期面談は支援責任者または支援担当者が実施する必要があり、支援計画の全部を登録支援機関に委託する場合を除いて第三者への委託は認められていません。一部だけを委託する場合は、面談を誰が行うのかを契約前に確認してください。
出典・参考(一次情報)
- 特定技能制度の現状について(技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 第8回・参考資料4)(出入国在留管理庁)
- 転籍制限期間の設定について(資料1-3)参考資料「1号特定技能外国人の転職状況」(令和7年8月末時点・暫定値)(出入国在留管理庁)
- 1号特定技能外国人支援・登録支援機関について(出入国在留管理庁)
- 特定技能外国人受入れに関する運用要領(令和8年8月20日一部改正版・確認日2026年8月21日)(出入国在留管理庁)
- 新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します(令和7年10月24日)(厚生労働省)
- 技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第3回)資料2-1「論点第2の1関連」(技能実習生の失踪状況・特定技能外国人の行方不明状況を同一資料内に収載・確認日2026年9月11日)(出入国在留管理庁)
- 地域外国人材受入れ・定着モデル事業実施報告書(令和5年3月)(厚生労働省(委託先=パーソルキャリア株式会社))
- 令和6年外国人雇用実態調査の概況(令和7年8月29日公表・生活状況の章は令和6年周期調査・調査時点=令和6年9月30日現在・第22-1表/第22-3表)(厚生労働省)
- 1号特定技能外国人支援に関する運用要領——1号特定技能外国人支援計画の基準について(令和7年4月1日一部改正)(出入国在留管理庁)
- 外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)の問合せ先(出入国在留管理庁)
- 令和6年度外国人受入環境整備交付金を活用した地方公共団体における一元的相談窓口の現況について(令和7年8月)(出入国在留管理庁)
- 特定技能制度における地域の共生施策に関する連携(協力確認書・施行期日2025年4月1日・確認日2026年9月11日)(出入国在留管理庁)
- 外国人雇用管理アドバイザーによる事業主支援のご案内(静岡労働局・2025年7月・確認日2026年9月11日)(厚生労働省 静岡労働局)
- 外国人の雇用(雇用する上でのルール・外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針)(厚生労働省)
- 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領——介護分野の基準について(令和7年4月21日一部改正)(法務省・厚生労働省)